Uボート ビスケークロスアンテナのシミュレーション       最新改定 2019.Jan.21 JH3FJA

 「ビスケークロス(Biscay Cross)」は Uボートが英国軍レーダからの探査を検知のために使ったアンテナの呼称です。
 英国軍ASV( Anti Surface Vessel Rader)MKUは 1940年 RAE( Royal Aircraft Establishment:英国の研究施設) において開発され数千セットが製造された波長1.7m( 実周波数範囲185〜215MHz )の海上探査レーダで1〜36マイル(中型艦艇想定)の探知レンジを持ち1940年11月30日にはビスケー湾においてドイツ海軍U71の探知・攻撃に成功します。 ドイツ軍は急遽材木(梱包材)と電線でASV電波検知用の臨時アンテナを作り 当該周波数を受信範囲に含む機材と組合せ Uボート水上航行においてブリッジに仮設する運用で探知行動を検知する機能を持たせます。
 本Webページは このビスケークロスアンテナの特性をシミュレーションしてみた結果を掲げています。

モデル化

アンテナ姿

 ビスケークロスアンテナは上側に位置する挟角が小さめの半波長インバーテッドVアンテナと その下側に位置する水平ベントダイポールからなります。 2つの出力は単純に一方のみが受信機に入力され合成はされないので、非接続側の給電部は開放状態と見なしシミュレーションモデルでは独立した2つのアンテナとして扱います。
 なお、アンテナ線材はΦ2mmの単銅線とします。


 左図の出典: Die Metox-Affaire
 http://www.cdvandt.org/Metox.pdf
アンテナ設置

 ブリッジ(艦橋)に設置されたビスケークロスアンテナの代表的な写真がこれです。 潜水艦の基本構造から恐らくブリッジの天場のハッチにつながる縦梯子にでもアンテナ方向を変えられるようアンテナ支柱を固定したと思われます。


 写真の出典: German U-Boat
 http://www.uboataces.com/radar-warning.shtml
モデル

 Uボート自身は波長の数倍の長さからなる鋼板面であり自由空間にあるアンテナとしては扱えないのですが ブリッジ頂上面(天場)に近い位置に設置されていますので 天場面を波長に比べ十分短い間隔のワイヤグリッドモデルとして扱います。 厳密にはブリッジ立面全周・海面上のデッキ・艦艇から海水への電導パスまでも扱う必要がありますが 支配要素はブリッジ天場での反射だと判断できます。

 具体的には海面レベル(SWL)+5m高さの位置に 艦艇長手方向3.6m×艦艇幅方向2mの長方形鋼板があり、その中央位置上方空間にビスケークロスアンテナが位置する格好です。


結果

 ビスケークロスアンテナを構成する逆Vアンテナ および ベントダイポールアンテナの指向性軸方向が バウ(舳先)・スターン(艫)に向いたアンテナ方向を「バウ・スターン向」、 同じく指向性軸方向がスターボード(右舷)・ポートサイド(左舷)に向いたアンテナ方向を「スターボード・ポートサイド向」と呼びます。 両者は方向(方位)が90度 異なりますが モデルではどのケースにおいてもY軸を艦長手軸に採り+Y方向がバウ(舳先)方向とし結果が比較し易いようにしています。

 以下の結果を眺めると 木枠と電線の簡単なアンテナですが2つのアンテナは Uボートから見て低仰角域から高仰角域までを意識した特性になっています。 ただ 垂直偏波波に対してはゲインが低く疑問が残りますがこれはASV MarkUの探査波が主に水平偏波成分であるので問題はなかったのかも知れません。 なお、アンテナ方向による指向性の違いは アンテナ給電点より見たブリッジ天場の見え方面積の違い(反射具合の違い)から来ているものです。

<バウ・スターン向/逆Vアンテナ>

逆V、垂直指向性 逆V、水平指向性  (Y 0degがバウ方向)
バウサイド向 逆Vアンテナ 垂直面指向性 バウサイド向 逆Vアンテナ 水平面指向性

<バウ・スターン向/ベントDPアンテナ>

ベントDP、垂直指向性 ベントDP、水平指向性  (Y 0degがバウ方向)
垂直面指向性 水平面指向性

<スターボード・ポートサイド向逆Vアンテナ>

逆V、垂直指向性 逆V、水平指向性  (Y 0degがバウ方向)
垂直面指向性 水平面指向性

<スターボード・ポートサイド向/ベントDPアンテナ>

ベントDP、垂直指向性 ベントDP、水平指向性  (Y 0degがバウ方向)
垂直面指向性 水平面指向性


END