Uボート ルンドアンテナの考察(基本編)       最新改定 2019.Jan.06 JH3FJA

 「ルンドアンテナ」は 1943年頃 ドイツ海軍Uボートが英国軍VHFレーダから電波探査を受けている検知のために開発された受信アンテナです。 ルンドは英語でいうラウンド、環状形態からのネーミングです。
 本ページでは ルンドアンテナの考察として「環状ダイポール単独」、「2本バーチカル単独」、「両者合体ルンドアンテナ」の順で各要素の特性を考察しています。

   環状ダイポール  2本バーチカル単独  両者合体ルンドアンテナ


環状ダイポール

 リング状にした半波長ダイポールアンテナはアマチュア無線の世界では「HELOアンテナ」と呼ばれるものなどいくつかありますが 少し違った成状なので「環状ダイポール」と呼びます。

< モデル >
環状ダイポールのワイヤモデル

 左図が環状ダイポール部のみを扱ったワイヤモデルです。

 環状ダイポール直径は Φ280mm、+Y、−Y方向の対峙エレメント末端の隙間(ワイヤ17、18の間と1、36の間)は いずれも扇型の角度で見て10deg(5deg振り分け)、また給電側からの分岐点(ワイヤ36、37の円弧側)の位置は環状中心点(座標原点)と結んだ扇型の開き角度で見て90deg位置(45deg振り分け)です。

< 共振特性 >
インピーダンス特性

 左図は環状ダイポールの100MHz〜350MHzに対する給電点インピーダンスの変化です。 リアクタンス分ゼロ・位相0degの共振固有値は166MHz、 ワイヤ1〜13・37・35の半分 と ワイヤ35の半分・36・21〜34をダイポールの両アームとする半波長共振です。 給電インピーダンスが一直線エレメントの標準ダイポールにくらべ小さいのは環状化による影響です。

 下の2つの図は 左、環状ダイポールの半波長共振(この166MHz)における電流振幅分布と、右、一波長共振での電流振幅分布です。 標準的な一直線ダイポールのそれと同様です。
半波長共振での電流分布1波長共振での電流分布
166MHz 半波長共振での電流分布 276MHz 1波長共振での電流分布

< 指向特性 >

 下左の図は 3Dでみた指向特性、コンタは座標原点と象形図任意表面点を結ぶ放射方向(平面方向と俯仰角度)におけるゲイン(dBi)です。
 下右の図は 水平面指向性、Z=0・XY軸面で見たものです。 赤線は標準的な一直線半波長ダイポールでの同断面の指向特性、環状化でピークゲインは少し下がり8の字のくびれ が浅くなっています。
3D指向性水平面指向性(XY断面)   赤:標準ダイポール
3D指向性 水平面指向性(XY断面)

 下左の図は X=0・YZ軸断面で見た 垂直面指向特性、円形です。 赤線は標準的な一直線半波長ダイポールでの同じ断面の指向特性、全俯仰角でゲインは少し落ちますが同じパターンです。
 下右の図は Y=0・XZ軸断面で見た 垂直面指向特性、全体の指向特性が3Dコンタのように(孔塞ぎ)ドーナツ型なので水平面指向性と同じようなパターンです。
垂直面指向性(YZ断面)   赤:標準ダイポール垂直面指向性(XZ断面)
垂直面指向性(YZ断面) 垂直面指向性(XZ断面)


2本バーチカル

 環状ダイポールの途中から分岐した2本バーチカル部分までを単独で眺めます。

< モデル >
バーチカルアンテナのワイヤモデル

 左図がバーチカルアンテナのワイヤモデルです。

 ワイヤ1〜8の成す下側円弧の半径は 140mm、環状ダイポールでのその部分と同じものです。バーチカル部は長さ(高さ)300mm、2本のバーチカルの根本位置は下側円弧でみて開き角度90degに位置します。

< 共振特性 >
インピーダンス特性

 左図は120MHz〜220MHzに対する給電点インピーダンスの変化です。 リアクタンス分ゼロ・位相0degの共振固有値が165MHz辺りにあります。 ワイヤ9の左半分・12・13 と ワイヤ9の右半分・10・11をダイポールの両アームとする半波長共振のそれです。
 給電インピーダンスが一直線エレメントの標準ダイポールにくらべ小さいのはエレメントを並行・近接等の影響です。

< 指向特性 >

 下左の図は 3Dでみた指向特性、コンタは座標原点と象形図任意表面点を結ぶ放射方向(平面方向と俯仰角度)におけるゲイン(dBi)です。
 下右の図は 水平面指向性、Z=0・XY軸面で見たものです。
3D指向性水平面指向性(XY断面)
3D指向性 水平面指向性(XY断面)

 下左の図は X=0・YZ軸断面で見た 垂直面指向特性、円形です。
 下右の図は Y=0・XZ軸断面で見た 垂直面指向特性です。
垂直面指向性(YZ断面)垂直面指向性(XZ断面)
垂直面指向性(YZ断面) 垂直面指向性(XZ断面)


ルンドアンテナ

 上述の環状ダイポールと2本バーチカルを包絡合体した形態のものを対象として眺めます。

< 整合容量 >
整合容量形成部の分かる写真

 左の写真の手前側になりますが 上述では扱わなかった整合容量の考察です。 整合容量と(勝手に)呼ぶのは 環状ダイポールの中央部のエレメントを非接触で重ね合わせる形態で形成されたキャパシタンス分です。 この写真にはこれを短絡するかのジャンパ板(赤線だ円)が付いているのが気になりますが 無視してください。

整合容量の考察モデル

 この部分の容量の 整合や輻射への影響の違いを 直観的に見るために 敢えて環状ダイポールをまっすぐに伸ばした半波長ダイポールにバーチカルエレメントを立てたアンテナを想定し 近傍界磁界分布で眺められるよう左図の様なモデルを使います。

 このアンテナモデルを「DP+2V」と呼びます。

 下記の4つの図は 上述のモデル上で容量を変化させたときのエレメントに近い近傍界磁界分布です。
DP+2V、整合容量 0PF
整合容量 0PF

DP+2V、整合容量 1PF
整合容量 1PF

DP+2V、整合容量 2PF
整合容量 2PF

DP+2V、整合容量 3PF
整合容量 3PF

 以下は各々の整合容量における「周波数対インピーダンス特性」です。 近傍界磁界分布でみてダイポール部・バーチカル部に一様な分布を形成している2PFのケースが良い感じの挙動をしています。
インピーダンス特性

 DP+2V、整合容量 0PF

 350MHzの共振は給電部と整合部を小さなループとする共振です。
インピーダンス特性

 DP+2V、整合容量 1PF

 
インピーダンス特性

 DP+2V、整合容量 2PF

 2つの共振点の間での位相が10〜20degと良い感じです。
インピーダンス特性

 DP+2V、整合容量 3PF

 

< ルンドアンテナのモデル >
ルンドアンテナのワイヤモデル

 左図が「環状アンテナ」と「バーチカルアンテナ」を包絡合体させたルンドアンテナのワイヤモデルです。

 環状の直径は Φ280mm、バーチカルエレメント(ワイヤ37、39)の長さ(高さ)は300mm、2本のバーチカルエレメントの根本位置は下側円弧でみて開き角度90deg とこれまでと変更はありません。

< ルンドアンテナの指向特性 >

 ここまでの解ったことを踏まえルンドアンテナ形態での整合容量を定め(1PFピッチで模索し6PFに条件設定)海面の上設置での指向特性を求めました。 呼称高さは給電点の海面からのエレベーションです。

指向特性(5m高)

 下左の図は 3Dでみた指向特性、コンタは座標原点と象形図任意表面点を結ぶ放射方向(平面方向と俯仰角度)におけるゲイン値(水平・垂直のトータルゲイン)です。

 下右の図は 周波数ゲイン特性です。 英国軍のこの時期の探査レーダの周波数は200MHz+−15MHzです。
3D指向性 周波数ゲイン特性
3D指向性 周波数ゲイン特性

 下左の図は X=0・YZ軸断面で見た 垂直面指向特性、下右の図は Y=0・XZ軸断面で見た 垂直面指向特性です。
垂直面指向性(YZ断面)垂直面指向性(XZ断面)
垂直面指向性(YZ断面) 垂直面指向性(XZ断面)

 下左の図は YZ軸断面で見た 低仰角の水平面指向特性(海面から1つ目の仰角4degのローブ)です。
 下右の図は XZ軸断面で見た 高仰角の水平面指向特性(仰角78degの天空位置)です。
水平面指向性(YZ断面)水平面指向性(XZ断面)
水平面指向性(YZ断面) 水平面指向性(XZ断面)

インピーダンス特性(5m高)

5m高 インピーダンス特性

 左図は120MHz〜220MHzに対する給電点インピーダンスの変化です。
 共振固有値154MHzは ともに166MHzの固有値を持つ環状ダイポールとバーチカルとの並列化によるもの、また、200MHz辺りは 給電点から環状ダイポール・バーチカルの分岐点までが電流振幅一定の給電線として動作しているものです。



指向特性(2m高)

 下左の図は 3Dでみた指向特性、コンタは座標原点と象形図任意表面点を結ぶ放射方向(平面方向と俯仰角度)におけるゲイン値(水平・垂直のトータルゲイン)です。

 下右の図は 周波数ゲイン特性です。 英国軍のこの時期の探査レーダの周波数は200MHz+−15MHzです。
3D指向性 周波数ゲイン特性
3D指向性 周波数ゲイン特性

 下左の図は X=0・YZ軸断面で見た 垂直面指向特性、下右の図は Y=0・XZ軸断面で見た 垂直面指向特性です。
垂直面指向性(YZ断面)垂直面指向性(XZ断面)
垂直面指向性(YZ断面) 垂直面指向性(XZ断面)

 下左の図は YZ軸断面で見た 低仰角の水平面指向特性(海面から1つ目の仰角4degのローブ)です。
 下右の図は XZ軸断面で見た 高仰角の水平面指向特性(仰角78degの天空位置)です。
水平面指向性(YZ断面)水平面指向性(XZ断面)
水平面指向性(YZ断面) 水平面指向性(XZ断面)

インピーダンス特性(2m高)

2m高 インピーダンス特性

 左図は120MHz〜220MHzに対する給電点インピーダンスの変化です。
 5m高さと大きな変化はありません。



END